スポーツサイエンス

スポーツサイエンスグループでは、アスリートの優れたパフォーマンスを可能とする制御メカニズム、神経機序の解明を目指して実験室内での実験のみならず、実際の実戦環境での計測も含めて様々なアプローチで研究を行っています。現在は主に野球の投球や打撃を対象として以下のような研究課題が遂行中です。
 
投球編
 
投球における優れたコントロールはいかにして達成されているのか?
野球の投球においてリリースのタイミングが数ミリ秒ずれると、ボールの最終到達点は約30cm 以上もずれると言われています。しかし、一流のプロ投手のみならず、トップレベルの小学生でさえ非常に高い精度で投球をコントロールすることができます。どのような仕組みで高い投球の精度が可能となっているのかを解明するために、投球中のモーションや全身の筋活動を計測し分析しています。(三木君が第5回日本野球科学研究会優秀賞を受賞
 
投球のコントロールを分かりやすく捉える
投手の投球速度はスピードガンやトラックマンの導入により、定量的に捉えることができます。一方でコントロールは、”針の穴を通す”とか”ボール半個分の出し入れ”と言ったように感覚的な表現こそあれ、客観的に評価する方法はありませんでした。そこで私達は投手のコントロールを評価するための有効な方法を確立しました(論文1論文2)。また、スピードガンで投球速度を測れるように、コントロールも安く簡便に測ることを可能とするシステムを構築するプロジェクトも進行中です。
 
球のキレの正体
優秀なピッチャーはキレのあるボールを投げると言われるが、”キレ”とは一体何なのでしょうか。ボールの回転量・回転軸の傾き等がその主要因であるとの考え方もありますが、投じられるボールに対する打者の予測とそこからの”ズレ”といった認知的側面にこそ”キレ”の本質があると考えています。(参照リンク1リンク2
 

打撃編

 
打撃における潜在的で早い視覚情報処理過程
野球の打撃ではボールが投じられてから0.4秒で打撃点に到達します。その間に球種や軌道を判別などさまざまことを行う必要がありますが、スイングそのものに要する時間と、ヒトが最短で反応するために要する時間でこの0.4秒はほぼ使い切ってしまいます。一方,プロの打者がヒーローインタビュー等で”身体が上手く反応した”と振り返ることがあるように、一流選手は潜在的で早い視覚情報処理過程を活用している可能性があると考えています。このような潜在的な視覚情報処理過程の神経基盤とその発達過程を明らかにしていきたいと考えています。
 
バーチャルリアリティを活用した打撃能力の特性評価と訓練
競技レベルの高い投手の投球軌道を経験および訓練する機会は試合以外には少ないが、ヘッドマウントディスプレイ( HMD)や計測技術の進歩により、実際の投球軌道・投球動作の映像をバーチャルリアリティ( VR)空間内で再現することが可能になってきました。本研究では, NTT コミュニケーション科学基礎研究所が開発した VR 打撃システムを用いて,打者の特性を評価することとやトレーニングツールとしての有効性を検討することを目的とています(日本野球科学研究会第5回大会で井尻助教が発表)。
 
 
 

実戦計測編

 
生体情報から試合中の心身の状態を定量評価する
どんなに優れた技術を有していても本番で発揮できなければ意味がありません。アスリートのパフォーマンスと緊張状態の関係性を捉えるために、まずその緊張状態を客観的に評価する必要があります。しかし心拍数というのは、運動によっても上下するし、緊張やリラックスの度合いによっても変動します。その二つの成分を切り離して、心理的要因による心拍数の変化をとらえるのが本研究の第一の狙いです(日本野球科学研究会第4回大会で井尻助教が最優秀発表賞を受賞)。選手の動きを阻害せずに心電図や加速度を計測できるウェアラブルセンサーhitoeを活用することで、試合中の選手のデータを取得することができます。バスケットボールなどのチームスポーツにおいて、コーチも含めたチーム全体の緊張状態を可視化することにもチャレンジしています。